2014年11月23日

偲ぶ石





偲ぶ石


私 「先生、私たちの庭には石がたくさんありますが、そのうちのひとつが私に何か言いたがっていることに気がつきました。ただ、石なので時間の流れが私と違うらしく、しばらくそこに佇んでいたのですが、意思の疎通ができずにその場を離れてしまいました」

先生 「そうですね、石の場合、ひとつの言葉を発するのに3年ぐらいかかりますから」

私 「やっぱりそうですよね。とすると、石の言葉を聞き取るためには石の前で3年間身動きをせずに耳を澄ませていなければならないということになりますが、その間、トイレにも行けないとなると私は死んでしまいます」

先生 「意識を石の前にぴんどめにしておけば肉体は自由に動き回っても石の言葉を失うことはありません。お買いものも海外旅行もOKです」

私 「ぴんですか?」

先生 「お裁縫に使っている待ち針でかまいません。あれで意識を空中にぴっと留めておけば•••」

私 「待ち針で空中に留めておくとそこを通りかかった人とか小鳥に刺さったりしませんかね?」

先生 「だいじょうぶです。ぴんの方が人や小鳥を避けて移動しますので」

私 「石のタイムスパンからいくと私の動きは速すぎて見えないと思うのですが、どうして石が私に語りかけようとしたのですか?」

先生 「それはあなたの意識を見たからです。石が儚いヒトの意識に目をとめるのはごくごくめずらしいことです」

私 「意識をぴん留めとおっしゃいましたが、意識は肉体と共に行動するのではないのですか?」

先生 「意識は偏在しているので、人間の言葉を使って強いて表現するならば“動きません”」

私 「今日は何か重大なことを教えていただいたような気がします。さっそく意識をぴん留めしておきます」

先生 「ひとつ言い忘れましたが、ぴんの頭に赤いリボンを結んでおいてください。それが印となります」

私 「わかりました。今日の昼食は羊の腿肉でかまいませんか?」

先生 「ぜんぜんかまいません。ひきつづきよろしくお願いします」

私 「どうもありがとうございます。先生、後ほど薄謝とタクシー代が出ますので」







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